百花斉放、村崎継承歌 2-3

「……忍、」

今朝はどうも、邸主の様子がおかしい。

先刻から抱きついて離れようとしないのである。

「…菖蒲様、これではいつまでも偵察に行けませぬ」

「今日くらい…他の者に任せてはどうです…」

ああ、声が震えている…。どうしても離れられないらしい。

「一体どうされたのです」

「………」

優しく背を叩いてみても、反応がない。

…仕方ない、後々父上に怒られるだろうが、本日の偵察は諦めることにしよう。

 

「饅頭は…」

「いりません」

「では緑茶は…」

「いりません」

「では…」

「いりません」

「………」

何ということだ。

甘いものを食べれば大概気が済む主、はなから否定され、こちらも打つ手がないというもの。はて、どうしたものか。

「…暫く、ここにいてください」

「しかし…」

「お願いです…」

「………」

邸主自らお願いされては、もう断れないではないか。

「…仕方ありませんね、昼までですよ」

邸主はか弱いその腕に懸命に力を込め、満悦の念を伝えた。

 

 

「…さて、菖蒲様。一体何があったのでしょう、黙っていてはわかりませぬ故」

戸惑い、俯く華菖蒲も見目麗しいこと。

「さあ、誰にも打ち明けたりはしませんから」

両手を取り、返答を待つ。

「………」

「ゆっくりで構いません」

「……話したくありません…出て行ってください」

まぁ、何ということ。行くなの次は出て行けとな。

「…わかりました」

いっそ潔く立ち上がり、振り返る事なく出て行こうと遣り戸に手を掛けた刹那。

 

「……菖蒲様?」

「…ごめんなさい…行かないでください」

後ろから抱きすくめられ、苦笑する。

はて…本当に困った人だ(しかしそこが初々しくて良い)

 

 

 

 

…どこだ。

どこに隠した。

 

怒りに我を忘れ彷徨う偵察の(しのび)、未だ若さは抜けないよう。

仕事柄目立たぬのが売り、しかし今回は例外

 

「…貴様か」

明らかに御偉方とお目見えする老将軍。一瞬、目元に走る青。

「…何の真似じゃ」

「菖蒲様を返せ」

声は低く吹き込まれ、動けぬよう、背後より身体ひとつ拘束する。

身の危険、悟る老将さえ突き立てる苦無に喉を鳴らす。

「どこに隠した」

「……」

成程、黙りを決め込むか、賢明ではないな。

「言え」

「…誰が言うものか、」

「では、死ね」

鮮血とは言い難い、尚言いたくもない、しかし苦無は鋭利に喉を裂く。

その首は胴から不自然に離れ、更にここは一(しのび)として、畳一面黒ずんだ朱に染上げてやった。

 

 

まだ幼い身、城の外は何もかも知らない世界。きっとどこかで震えておられることだろう。

拉致などという突然の出来事、何も知らぬまま連れ去られ…。

さぞ、怖かっただろうに。

ああ、今、貴方を想うと、胸が痛い。

この軒吊、一刻も早く見つけ出してみせます。

それまでどうか、ご無事で…。

 

(しのび)は確信を得ぬままに、とにかく歩みを進めた。