「村崎さんちの虎次郎」

一匹の虎猫が、茂みから出てきました。

 

「虎次郎ー!朝ごはんでござるー!」

今日も、朗らかな声が村崎家武家屋敷に響き渡ります。

「なー」

「今朝はなんと拙者特製、猫まんまでござるよ♪」

「なー」

「む、そんなに嬉しいでござるか?良かったでござる!」

菫ちゃんは虎次郎を抱き上げると、猫まんまのお皿を軒下に置きました。

「今日もいい天気でござるな!」

「なー」

虎次郎は早速、菫ちゃん特製猫まんまを食べ始めます。

「おいしいでござるか?」

「なー」

「むむ、それはそれは…かたじけないでござる!」

虎次郎はまんまをぺろりと平らげると、地面に降り立ちました。

「お昼にまた来るでござるよ!」

「なー」

虎次郎は尻尾でたしたしと地面を叩き、どこかへ去っていきました。

 

 

「…む、虎次郎か」

「なー」

虎次郎、今度は菫ちゃんのお父さん、はちに会いに来たようです。

はちの書斎はいつも、お習字の墨汁のにおいがします。

「すまんな、今は煮干しを切らしているのだ」

「なー…」

「…そんなに悲しい顔をするな」

「……」

虎次郎はいつものように、はちの膝に乗っかりました。

「構って欲しいのか?」

「なー」

はちが背中を撫でてやると、虎次郎は甘えた声で鳴きました。

「可愛いな、お前は」

「………」

「……不服か」

「…………」

「……美しいな、お前は」

「なーなーなーなー」

虎次郎は満足そうに、はちの腕に頬擦り。

それからしばらく、はちのお膝で眠ることにしました。

虎次郎は基本、勝手気ままに生きてます。

 

 

はちの足(※美脚)がつった頃、虎次郎は目を覚まします。

それから最後に、はちの悲鳴を無視して足に何度か頬擦りすると、やっと書斎を出て行きました。

 

虎次郎、今度は菖蒲様のお部屋に侵入するようです。

スキマから覗くと、菖蒲様はなにか紙に字を書くお仕事をしていて、どうやら邪魔しちゃいけない雰囲気。

しかし虎次郎はそんなこと構いません。

「なーーーーー」

「……おや、虎次郎ではありませんか」

わざとらしく長〜く鳴いて、菖蒲様の手を止めてしまいます。

でも実は、虎次郎なりの気配りのつもりなのです。

「なーなー」

「ほぅ…、働き過ぎでしょうか?お気遣いありがとうございます、虎次郎」

「なー」

虎次郎はそのまま菖蒲様に近づき、ふわふわの毛並みを撫でさせてあげます。

これも気配りです。

「なー」

「なるほど、疲れた手にはこれが一番、ですか」

「なーなー」

虎次郎は、はちと菫ちゃんの次に菖蒲様が好きでした。

今日は特別サービス、なでなで時間を10分まで延長してあげました。

 

 

 

今日もたくさん、いいことをして、虎次郎はご満悦。

菖蒲邸食堂の時計を見ると、もうすぐお昼。

虎次郎は菫ちゃんの所まで、走っていきました。