百花斉放、村崎継承歌 2-1

軒吊家は代々、(しのび)として菖蒲様一族にお仕えしてきた。

しかしまぁ、今代邸主の何と美しいこと…。

 

父は隠居の身、その上血を継ぐ男児は彼のみ。故に頂点へと成上がるのは必定の理である。

 しかし、当の本人は憂いに沈むばかりだった。

 

 「如何なさいました、菖蒲様」 

眉間に扇を立て、物思う主の顔は晴れず。 

「…忍は、どう思いますか」 

はてと首を傾げる黒装束の(しのび)、つと閃いてはこちらも浮かばれぬ表情。 

「やはり私が、末代となるのでしょうか」

「………、……」

返す言葉も咄嗟に出ず、黙り込む(しのび)

「アヤメに託すしかないのでしょうね」

「…どうか、気を落とされぬよう」

悲しげに嗤い俯くその姿さえ愛おしく、あまつさえ胸が痛む。

 

「私は、必要とされていないのでしょうね、この城に」

珍しく自嘲する主に、困惑を隠せぬ側仕。

しかしこの(しのび)、人一倍自嘲は嫌いである。特にこの方の場合はどうにも許せない。

「貴方がいなければ、艶藤も村崎も、ここにはいないでしょう」

「ですが、子種も授かれぬこの身…」

言い募る(しのび)に苦笑の邸主、側仕は更に捲し立て、

「この軒吊、貴方のお側に控えさせなければ、最早軒吊に非ずとでも言いましょうか」

 

熱に余る手を握り締め、強く胸におさめる。

面を下げ、黙然と跪けば、主ははっとしたように忍を見つめた。

 

 

…思わず零れる微笑。

あれ以来、何も変わっていないのだな。

  

 

「手前は、幾久しく貴方を慕い敬う所存故」

有ろう事か、顔を上げた黒き側仕は口元を覆う仮面に手を掛け、そっと外して見せた。

 

「…貴方に、手前の全てを捧げ、終身尽くす」

 

誰にも見せたことのない造作を露に、心より誓う。

 

 

 

 

…貴方は、僕が守るから。