project×cropa- 「菊塵の」
鼻をつく畳のにおい。
ふと、左に倒れた枯山水が目に入る。
「……」
ああ、なんて重苦しい布団なのだろう。
鬱陶しいそれを一掃し、見当もつかぬこの地を散策しようと立ち上がる。
さて、まずは出口だ。
…扉と思われる四角い板を、押してみる。
開かない。
しかしまぁ、丸くて薄っぺらいノブだな。というか握れる取っ手のことをノブというのではなかったか。
そして鍵穴までついていないのか。セキュリティがなっていない割になんという頑丈さ。
何なのだ、ここは。
感心とも苛立ともつかぬ刹那、
「はぅっ」
目の前の板に、置いていた右手を持っていかれる。
…開いただと!…そうか、スライド式だったのか!
と景味をおぼえる間もなく、
「むむ、何奴!」
「ぐふぉッ」
突如みぞおちに入った峰。意識を手放すには充分の苦痛だった。
「…ここらじゃ見かけない顔ですねぇ」
閉じた扇の先で顎をつと持ち上げ、まじまじと見つめるお顔は真剣そのもの。
「一体どちらからいらしたのです?」
柔らかい口調の陰に感じる刺は気のせいなのだろう。
「……クラウドという…星ですが」
「ふふ、そのまま答えれば良いというものではありませんよ」
邸主は満面の笑みを湛え、更に顎を持ち上げる。扇の親骨が刺さって痛い。
「……すいませんでした」
「おや、何故謝るのでしょう」
…駄目だ。敵わん。こいつ絶対ドSだ。
「え、えっと…」
どうにかこの状況から逃げ出そうと、必死に視線を泳がせる。
忍者と思しき出で立ちの側近に、救いを求めて目配せするも、ふいと背けられては元も子もない。
な……なん…だと…。
と同時に、
「…無礼者め!」
「ひゃぅっ!」
背後から脳天への衝撃。既の所で意識は留めたが、振り返る余裕もないままに痛みに耐える。
「さては余所者か!その髪、禁色と知りながら菊塵に染上げるとは何たる無礼!怪しからん、実に怪しからん!」
何なのだ。一体自分は何をしたというのか。怪しからんのはどちらだ。
「あ、あの!お言葉ですけどね!俺が何をしたっていうんです…」
顎に掛けられている扇子を吹っ飛ばす勢いで振り返り、次いで容疑者のような台詞を吐けば、後悔の念に苛まれた。
見下す紫に、背筋が凍る。
「………」
「………」
ああ、俺はこれから、どうなってしまうのか。
「おや、扇が飛んでいった」
そんな呑気な言葉も、もう耳には入ってこなかった。