百花斉放、村崎継承歌 1-4

三日目の晩。

一行が帰路を辿っていると、一人の飛脚が何か叫びながら全速力で走ってくる。

 

「殿!殿ーっ!城が、城が…!!」

 

…一行は唖然とした。

 

 

 

 

「…紅……?」

命尽きるまで守り抜くと、誓ったのに。

 

菖蒲邸は敵城の奇襲に遭い、城に残された者達はほぼ殲滅状態であった。

血塗られた城、踏み入る勇気はない。…いや、まだ希望はある……、

「…紅……紅………!」

…しんと静まり返る城に一縷の望みは薄れ、ただ名を叫ぶことしかできぬ。

周りの者も、変わり果てた城の様相に呆然としているだけ。

「…紅……!」

 

紅い夜に、悲痛な声だけが響いた。

 

 

「……村崎殿、」

静かに顔を上げると、目の前には侍従の忍。

「不幸中の幸いとでも言えよう…。腹の子は無事であった 」

だが、何も。何ひとつ耳に入ってこない。

「………」

その瞳にすら、何も映さない。

「……………紅……」 

「…萩屋のお紅はもう、いない」 

それでも尚、

「……紅…」

「……村崎殿」

 紫の武士は生気のない目で、静かに泪を流し続けた。

突然の別れ。喪失。自責。

忍にはその心の穴、とても埋めることはできず。

何もできぬまま、心残りのままに、気を失った主の元へ去った。

 

 

 

紅葉の美しい、濡れた夜だった。