小説

不可避

今日は二つ更新です。どっちも短編。 キノールさん無断で借りた奴① とてもとても暗いホモ。大草原。

百花斉放、村崎継承歌 3-3

……はて、 二、三度、鈍い音がした。 「白藤…、」 そっと目を開けば駕籠より降立つ優男、能面に湛える微笑は妖艶に。 幟持ち、朱槍は三(み)つ鼎(がなえ)、地に伏す。 「殺しですか…」 幟をなぞる流麗な指先から目が離せない。 「…貴殿、何者」 やっとの思いで…

百花斉放、村崎継承歌 3-2

頬を撫でる風は冷やか、落ちた葉も乾き、踏締めては小気味の好い音をたてる。 過ぎ行く時季に移ろう華、時を経て尚、片時も離れぬ記憶が疎ましい。 ふと握り締めた両の手首、嵌まる鉄の輪に、もう二度と見ることのないお顔を思い浮かべ、漢はひとり嗤う。 貴…

百花斉放、村崎継承歌 3-1

陶器の破片が、床に飛び散る。 「いやん」 だが、何故か愉快げに欠片を拾い集める長身の男…、 否、女性…否、男性。れっきとした漢。 「いやだわ、もう。街で新しいの買ってこなくっちゃ」 言葉とは裏腹、この漢、実に楽しそうである。 懐から小箒を取り出し…

百花斉放、村崎継承歌 2《結集》

軒吊家は代々、忍しのびとして菖蒲様一族にお仕えしてきた。 しかしまぁ、今代邸主の何と美しいこと…。 父は隠居の身、その上血を継ぐ男児は彼のみ。故に頂点へと成上がるのは必定の理である。 しかし、当の本人は憂いに沈むばかりだった。 「如何なさいまし…

百花斉放、村崎継承歌 2-4

腐表現多少あり。ご注意くだされ。

百花斉放、村崎継承歌 2-3

「……忍、」 今朝はどうも、邸主の様子がおかしい。 先刻から抱きついて離れようとしないのである。 「…菖蒲様、これではいつまでも偵察に行けませぬ」 「今日くらい…他の者に任せてはどうです…」 ああ、声が震えている…。どうしても離れられないらしい。 「…

百花斉放、村崎継承歌 2-2

双眼はただ暗闇のみを映し、開いているやら閉じているやら見当もつかぬ。 相当にきつく締上げられ、しかし食い込む縄の感触すら届かない程に、意識は朦朧と彷徨うばかり。 すっかり枯れ果てた喉、その口を塞ぐものはないが、やはり声は出ない。 つめたい…さ…

百花斉放、村崎継承歌 2-1

軒吊家は代々、忍(しのび)として菖蒲様一族にお仕えしてきた。 しかしまぁ、今代邸主の何と美しいこと…。 父は隠居の身、その上血を継ぐ男児は彼のみ。故に頂点へと成上がるのは必定の理である。 しかし、当の本人は憂いに沈むばかりだった。 「如何なさいま…

百花斉放、村崎継承歌 1《結集》

世はお江戸、色も酣。 菊塵の袖にて口元を隠し、恍惚として微笑むその姿は妖しき女子おなごの如く。 「美しい」 盛りを終え散りゆく桜に、邸の主は顔を綻ばせた。 見上げる空に散る花弁。薄青に桜色がよく映える。 ひろい庭の隅、石池にまで降り注ぎ、数え切…

百花斉放、村崎継承歌 1-5

宵の口はまるで、紅炎の如く。 「…父上?」 どうにも堪え切れず、泪が溢れる。 このような見苦しい姿、見られてはならぬと、息子に背を向け端坐を保つ。 「……」 「父上…?」 …お前だけが、紅の生きた、証。 「…菫丸」 震える声は痛みを隠しきれず、それでも…

百花斉放、村崎継承歌 1-4

三日目の晩。 一行が帰路を辿っていると、一人の飛脚が何か叫びながら全速力で走ってくる。 「殿!殿ーっ!城が、城が…!!」 …一行は唖然とした。 「…紅……?」 命尽きるまで守り抜くと、誓ったのに。 菖蒲邸は敵城の奇襲に遭い、城に残された者達はほぼ殲滅…

百花斉放、村崎継承歌 1-3

日は既に沈み、蒼味を帯びる月明かりが一武士を貫く。 畳に端坐するその姿は父の面影をそのままに映し、心地良い夜風が頬を濡らした。 ここに居ると時折、思い返すのだ。 今は亡き母のことを。 ただ、その顔が思い出せぬ…。 あの日が戻ることはない。 主の御…

百花斉放、村崎継承歌 1-2

秋風のにおいも美しき紅葉も、今はただ、辛い。 一人息子達ての頼み、突っ撥ねることもできず紅葉狩りに裏山を訪れたは良いが、どんなに見事な彩も、感慨に浸らせてはくれぬ。 もう一度、顔が見たい…。 景色を眺め歩くも、そればかりが巡り、鳥の囀りも、木…

百花斉放、村崎継承歌 1-1

世はお江戸、色も酣。 菊塵の袖にて口元を隠し、恍惚として微笑むその姿は妖しき女子(おなご)の如く。 「美しい」 盛りを終え散りゆく桜に、邸の主は顔を綻ばせた。 見上げる空に散る花弁。薄青に桜色がよく映える。 ひろい庭の隅、石池にまで降り注ぎ、数え…